尻呼吸

皆さんは「尻呼吸」をご存知だろうか。肛門から空気を取り込み、直腸、胃、気管から肺へと空気を流し込むことによって、呼吸をする方法である。

僕が初めてこの呼吸方法を知ったのは忘れもしない、大学入学して最初の授業である。

「皆さんは、尻呼吸を知っていますか?」

絶句した。僕の大学は日本国内では名の知れた大学であるが、そこの教授が授業始まって開口一番聞いたことの無い単語を発するのである。正確には、知っている言葉と知っている言葉を組み合わせたものであるが。

「尻」と「呼吸」。一見してなんの関連もない単語に見えたが、言われてみると薄い線で繋がるような気がする。

人間には様々な穴が存在するが、人間が口、鼻、耳、毛穴、性器から空気を取り込み呼吸できることは皆さんご存知だろう。しかし、この人間に存在する穴の中で唯一呼吸できない、いや「呼吸できないと思い込んでいる」肛門という器官で、何故呼吸できないかなど考えたこともなかった。

ちなみに僕らの前で尻呼吸と発したその男は大学関係者でも何でもなく、教室から警備員に連れ出されて行った。

その日は尻呼吸のことが頭から離れなかった。尻呼吸、尻呼吸あっちを見ても尻呼吸、こっちを見ても尻呼吸、しまいにはアスタリスク(※)や米という字が肛門に見える始末。とにかくその日は尻呼吸のことしか考えられなかった。

数日後、いつものように尻呼吸に関して調べていると、興味深い記事を見つけた。タイトルは
「現代にも存在する!尻呼吸をする人々!!」。

その記事によると、たまにいる絶望的に息が臭い人々は、少量ではあるが無意識に肛門から空気を取り込んでおり、それが口や鼻、耳から取り込んだ空気に取り込まれることで圧倒的な臭気を放つという。これを「部分的尻呼吸」と呼ぶらしい。

あれが少量であるなら本当の、100パーセントの尻呼吸はどうなってしまうのか。そこから僕は、1日8時間、尻呼吸の練習を始めた。

そして1ヶ月後、僅かに息の中に異質な臭気が入り込んでいるのに気づいた。それは明らかに、便の香りだった。

そこから先は早かった。マスクはあっという間に強烈な臭いを放つ兵器となり、尻呼吸で友達の家のネズミを全滅させた。その噂は瞬く間に広まり、僕は大学生で「立てば大便座れば大便、歩く姿も大便」略して大便大便大便と呼ばれることとなった。

そしてついにはテレビの取材まで来るようになり、そこで初めて尻呼吸について話した。これはSNSでも大きく取り上げられ、若者を中心に大流行した。
そして尻呼吸は世界を超え、Twitterでは#analblessingのタグを見ない日はなくなった。

そして今、僕は尻呼吸世界大会の会場にいる。日本全国から集められたアナルブレシストたちが集い、しのぎを削る日本大会で優勝し、僕は代表に選ばれたのだ。

次回。世界大会編開幕。乞うご期待。